ニュースの概要
シェアリングサービスのLuupは、山梨県でも電動キックボードと電動アシスト自転車を使えるようにしたと発表した。これまで同社の主力は東京、大阪、京都など人口の多い都市部だった。そこに、ぶどうやワインで知られ、富士山や湖など観光資源が豊富な山梨県が加わる形になる。山梨県はJR中央線や富士急行線が走る一方、駅から先の移動は車に頼りがちな地域も多い。今回の展開は、そうした駅から目的地までの短い移動を、スマートフォンで借りられる小型の乗り物で埋めようとする動きと受け止められる。同社が都市型の枠を超えて、地方の観光や生活の足へ踏み出した点が、今回のニュースの核心である。
引用元: 山梨県で「LUUP」の電動キックボード・電動アシスト自転車がご利用可能に(Luup)
分析・見解
都市の混雑対策から、地方の足不足対策へ
LUUPが生まれた背景には、都市部の駅周辺にある短距離移動の不便さがあった。バスを待つほどではないが、歩くには遠い。そんな距離を埋めるのが得意なサービスである。山梨県の課題は、実は都市と同じ形をしている。甲府駅や富士山麓の駅から観光地まで、約1〜3キロの中途半端な距離が点在するからだ。
違いは需要の出方にある。都市では通勤や買い物で一日中安定して使われる。一方、山梨は週末や観光シーズンに集中しやすい。つまり、同じ車両でも稼働の波が大きくなる。ここをどうならすかが、地方展開の最初の関門になる。
電動アシスト自転車が主役になりそうな理由
山梨は盆地で坂が多く、夏は暑く冬は冷え込む。電動キックボードは小回りが利くが、坂や風に弱く、寒さの中では乗りにくい。その点、電動アシスト自転車は坂道でも体力を使いにくく、荷物や子ども連れにも向く。今回、2種類を同時に出した点は、地域の地形を踏まえた現実的な判断に見える。
同じ傾向は、観光地で先に広がったレンタサイクルの実績からも読める。京都や広島のしまなみ海道では、電動アシスト付きが人気車種になった。体力差のある家族や高齢の旅行者も同じ行程を回れるからだ。山梨でも、ワイナリー巡りのように「点と点の間」を回遊する使い方が相性がよい。ただし、飲酒後の運転は絶対に許されない。ワイナリー周辺では、利用前の注意喚起や時間帯の制限を、事業者と自治体が先に設計する必要がある。
法規制と安全面で地方ならではの注意点
電動キックボードは2023年7月の法改正で、条件を満たす小型の車両が特定小型原動機付自転車に分類された。最高速度は時速20キロに抑えられ、免許は不要だが、ヘルメットは努力義務とされている。都市では交通量の多さが事故の要因になるが、地方では逆に、歩道が狭い、街灯が少ない、道路が暗い、といった別のリスクが生まれる。
加えて、観光客は土地勘がなく、地元の運転者も歩行者以外の小さな乗り物に慣れていない。山梨県警や市町村との協議、走行可能エリアの設定、駐輪する場所の整備が欠かせない。事故を減らす鍵は、速度を自動で落とすエリア制御や、夜間の貸出制限のように、利用者の注意力だけに頼らない仕組みである。
独自の視点:ポートの置き場所が事業の成否を決める
シェアモビリティの採算は、車両の数よりも置き場所の質で決まる。LUUPは「ポート」と呼ぶ専用の駐車場所を、コンビニやマンションなど既存の土地に増やして広げてきた。山梨のような地方では、宿泊施設、道の駅、ワイナリー、温泉などが自然な拠点になる。
ここで重要なのは、事業者が単独で場所を探すのではなく、地域の店や施設に「客が増える入口」として置いてもらう関係を作れるかどうかだ。地元側にとっては、貸出の記録から、どの時間にどこから人が来たのかというデータが得られる。これは、観光施策の効果をはかる材料にもなる。単なる移動サービスから、地域の人流を見える化する基盤へと価値が広がる可能性がある。
ビジネスへの影響
観光業と小売店が今すぐ検討できること
ワイナリーや温泉、飲食店は、LUUPのポート設置を受け入れるかどうかを、早めに検討したい。駅から少し離れた店でも、「借りて来られる店」になれば来店のきっかけが増える。駐車場のない小規模店舗にとっては、徒歩圏を広げる手段にもなる。
また、宿泊施設は自館の客向けに、近隣の周遊マップと利用方法をセットで案内すると効果が出やすい。フロントでの説明負担は増えるが、滞在中の満足度は上がる。事前にポートの位置と最後に返却できる時間を、案内にまとめておくとよい。
自治体と交通事業者が決めておくべきルール
自治体側は、走行ルールとポート配置の基準づくりが急務になる。景観保護が必要な地区や、歩行者が多い商店街では、置いてよい場所と台数を明確にしたい。観光客向けの多言語での注意書きも欠かせない。
バスやタクシーなど既存の交通事業者にとっては、競合というより補完関係として設計するほうが合理的だ。たとえば、駅からバス停まではバス、そこから先の最後の1キロはシェアモビリティ、といった切り分けである。共通の乗り継ぎ案内を作れば、地域全体の移動量が増える。
企業が活用する場合の損益と安全の視点
出張や社員研修で山梨を訪れる企業は、レンタカーの台数を減らせる可能性がある。短い移動だけなら、1回あたりの料金は数百円程度で済む場面も多い。ただし、業務中の事故に備え、ヘルメットの着用や飲酒禁止、利用範囲を社内規程に明記しておくべきである。保険の扱いも、事前に確認しておきたい。
地方展開の成否は、数か月分の稼働率と事故件数で判断されるだろう。導入した事業者や自治体は、最初の1シーズンのデータを公開し、次の見直しに生かす姿勢が求められる。