ニュースの概要
ベルギーのブリュッセル首都圏が、薬物の使用や売買が問題になっている19カ所で、電動キックボードの利用を禁じる方針を示した。対象は個人の所有車両だけではなく、シェア事業者が貸し出す車両にも及ぶ。狙いは、薬物絡みの治安問題が集中する地区で人の出入りや滞留を減らし、警察や行政の見回りをしやすくすることにある。市内全域で電動キックボードを締め出すのではなく、リスクの高い地点だけを区切って禁止する点が特徴だ。交通安全や騒音ではなく、治安対策を理由に移動手段そのものを制限する珍しい例であり、シェアモビリティの運用にも新しい論点を投げかけている。
引用元: ブリュッセル、薬物問題地域19カ所で電動キックボードを禁止へ(The Brussels Times)
分析・見解
交通ルールではなく治安対策として使われた規制
今回の禁止は、事故や歩道の暴走といった従来の交通問題が理由ではない。薬物の売買が行われる場所で、素早く現れて素早く去る手段として電動キックボードが使われやすい、という見立てが背景にある。小型で音が小さく、歩行者の間をすり抜けられる乗り物は、見張りや受け渡しの役にも向いてしまう。
つまり行政は、乗り物の安全性ではなく「その場所での使われ方」を規制対象にした。これは規制の発想が車両ベースから場所ベースへ移ったことを示している。
全面禁止でなく19カ所に絞った理由
パリは2023年の住民投票を経て、2023年9月からシェア型電動キックボードを全面的に廃止した。ブリュッセルは事業者を残したまま、問題地点だけを塞ぐ道を選んだ。全面禁止は分かりやすいが、通勤や短距離移動の利便を失い、事業者の撤退や雇用への影響も大きい。
地点限定なら、利用者の大半は今までどおり使える。行政は治安対策の成果を示しつつ、交通政策としての後退も避けられる。ここが今回の最も現実的な部分である。
位置情報による制御が現実味を持つ
シェア車両には、GPSで位置を把握して特定の区域に入ると減速や停止をかける仕組み(=ジオフェンス)がすでに普及している。事業者は歩行者天国や駅前の乗り入れ禁止区域で、同じ仕組みを使っている。19カ所という数なら、地図データに登録して反映する作業は難しくない。
一方で、私有の電動キックボードには同じ制御がきかない。実効性を左右するのは、個人所有車両への取り締まりを警察がどこまで行えるかである。シェア車両だけが止まり、私有車両が抜け道になれば、規制の意味は薄れる。
日本で同じ議論が起きる条件
日本では2023年7月の改正道路交通法で、最高時速20キロ以下の特定小型原動機付自転車という区分が新設され、免許なしで乗れるようになった。シェアも都市部で広がっている。今のところ、治安を理由に利用区域を絞る議論は目立たない。
ただし繁華街の夜間や、特定の公園、駅周辺で問題が積み上がれば、自治体がブリュッセル型の発想を参照する余地はある。そのとき事業者に求められるのは、区域を柔軟に設定でき、行政の要請に素早く応えられる運用力である。
ビジネスへの影響
区域制御の要請は突然来ると考えておく
シェア事業者にとって、特定地点の利用停止は技術的には可能でも、実務では負担が重い。区域の変更依頼が自治体から短い期間で届く場合、地図データの更新、アプリでの利用者への告知、停止区域に入った車両の回収手順まで、一連の流れを整える必要がある。
今のうちに、区域設定を管理画面から即時に変更できる体制と、変更履歴を残す仕組みを用意しておくと、行政との協議で有利になる。要請を待つのではなく、治安や苦情の多い地点を事業者側から提案できれば、全面禁止という最悪の結論を避けやすい。
行政との協定に、地点規制の条項を入れる
自治体と結ぶ運用協定には、事故や放置の対応に加えて、治安上の理由による一時的な区域停止の手順を盛り込むのが望ましい。停止の判断者、通知から反映までの時間、利用者への返金や補償の扱いを事前に決めておけば、突発的な規制でも混乱は抑えられる。
企業向けに電動キックボードを導入する側も同じだ。社用車両が規制区域に入る可能性のある営業ルートでは、事前に走行ルートを見直し、従業員へ周知しておきたい。法規制の全体像や安全面の論点は、当サイトの法規制ページと安全・事故ページにまとめている。