ニュースの概要
神奈川県相模原市が、ごみ収集の現場で全国初となる試みを始めました。収集車の後ろを作業員が走って追いかけるのをやめ、電動キックボードで追走する方式です。収集の現場では、ごみ置き場から次の置き場まで小走りで移動する作業が続きます。夏の暑さや冬の路面凍結の中でも、これを一日に何百回も繰り返します。足腰への負担は大きく、転倒やけがの原因にもなってきました。そこで乗り物を使い、作業員が走る距離を減らそうという発想です。報道によれば、走らずに移動できる分、体力の消耗を抑え、作業の安定にもつながると期待されています。身近な行政サービスの裏側で、マイクロモビリティ(=小型の電動移動手段)が新しい使い道を見つけた事例といえます。
引用元: 「走らないごみ収集」電動キックボードで収集車追走 相模原で全国初の試み(カナロコ)
分析・見解
観光や通勤ではなく、作業の足としての電動キックボード
電動キックボードは、これまで都市部の短距離移動や観光の足として語られてきた。貸し出し大手のLUUPなどが駅周辺にポートを広げ、利用者は主に通勤客や旅行者だった。今回の相模原市の試みは、それとは使い道がまったく違う。目的は移動そのものではなく、作業を楽にすることだ。
現場の作業員は、収集車が数メートル進むたびに降りて、ごみ袋を投げ入れ、また追いつく。この小刻みな動きが体にこたえる。キックボードに乗れば、短い距離を歩かず走らずにこなせる。移動手段が「人を運ぶ」から「作業を支える」へ広がった点が、この事例の新しさである。
全国初になった理由は、法律ではなく運用の壁にある
2023年7月の改正道路交通法で、一定の条件を満たす電動キックボードは「特定小型原動機付自転車」として扱われるようになった。最高速度は時速20キロ以下で、免許は要らない。ヘルメットは努力義務である。つまり制度上は、自治体が業務で使うこと自体を止める規定は見当たらない。
それでも全国初になったのは、制度ではなく現場の運用に壁があるからだ。収集作業は狭い路地で行われ、歩行者や自転車、子どもと同じ空間を走る。さらに、ごみ袋を持ったまま乗ることはできない。乗り降りの回数が多い作業では、かえって転倒しやすくなる可能性もある。自治体は、事故が起きたときの責任の重さを考えて、慎重になりやすい。今回は、追走という限られた使い方に絞ったことで、先に進めたのだと考えられる。
事故リスクと負担軽減は、どちらが重いのか
ごみ収集は、労働災害の多い仕事である。厚生労働省の統計でも、廃棄物処理業は他の業種に比べて休業を伴う災害が目立つ。特に多いのは、転倒や、収集車からの転落、車両との接触だ。走って追いかける動作そのものが、事故の入口になっている。
電動キックボードは新たなリスクも持ち込む。しかし、走る距離を減らして疲れを抑えれば、足元の注意力は保ちやすい。重要なのは、リスクをゼロにすることではなく、現在のリスクと比べてどちらが小さいかを測ることだ。相模原市が事故やヒヤリハットの件数を記録して公開すれば、他の自治体が判断する材料になる。
人手不足の自治体が見ている、次の一手
全国の自治体で、収集作業員の確保は年々難しくなっている。募集をかけても応募が少なく、高齢化も進む。無人の収集車や自動運転を待つ余裕はない。今ある制度と、すでに普及した機器で、働く人の負担を下げる方法が求められている。
電動キックボードは価格が比較的安く、運転の習得も早い。大がかりな投資をしなくても試せる点は、財政の厳しい自治体にとって魅力だ。今後は、他の業務へ広がる可能性もある。公園の巡回や、広い施設での点検、災害時の被害確認など、短い移動を何度も繰り返す仕事は多い。
ビジネスへの影響
現場の作業を、移動手段の目で見直す
自治体だけでなく、民間の企業にも使えるヒントがある。物流の仕分け、警備の巡回、広い工場や倉庫での点検は、短い移動を何度も繰り返す点で収集作業と似ている。歩数や移動距離を一度記録してみると、意外に多くの時間と体力が移動に使われている場合がある。導入を考える際は、まず一つの作業に絞って試すことが大切である。台数を増やす前に、事故の有無や作業時間の変化を数週間記録し、その結果で判断するのが現実的だ。
保険と責任の整理が導入の成否を分ける
業務で電動キックボードを使うなら、保険の確認は欠かせない。自賠責保険への加入が必要で、業務中の事故に対応する任意保険の条件も確認しておく必要がある。あわせて、ヘルメットの着用を社内ルールとして義務にすること、走行できる場所と速度の上限を決めること、乗る前の講習を行うことが基本になる。責任の所在を事前に文書で整えておけば、万一のときも対応が早くなる。
機器メーカーや貸出事業者にとっての新しい需要
電動キックボードを扱う事業者にとって、これは新しい市場の入口である。観光や通勤向けとは別に、業務用の機体や、法人向けの定額貸し出しという形が考えられる。荷物を載せられる、あるいは乗り降りしやすいといった、作業向けの機能が求められるだろう。現場の声を集めて機体を改良できれば、他社との差別化にもなる。