ニュースの概要
ポルトガルの首都リスボンで、市長のカルロス・モエダス氏が、電動キックボードのシェアリング制度を停止する考えを明らかにした。現在はBolt、Lime、Birdの3社がサービスを提供しているが、市は毎月1,200台を超える車両を回収しているという。理由として挙げられたのは、公共空間への放置や、事業者の運用管理が追いついていない点だ。停止を実現するには市議会の承認が必要で、10月21日の会議で協議される見通しである。観光客の多い歴史的な街で、台数の調整や駐車場所の指定といった対応を重ねてきた都市が、全面停止という強い手段に踏み込もうとしている。各国の自治体にとっても、他人事ではない動きといえる。
引用元: リスボン市長、電動キックボードのシェアリング制度停止を表明(Euronews)
分析・見解
月1,200台の回収が示す運用の限界
月に1,200台という回収数は、1日あたりに直すと約40台になる。市の担当者や委託業者が、毎日のように道路や歩道から車両を片づけている計算だ。
シェアリングは、事業者が自分で車両を見回り、置き場所を整えることで成り立つ。行政が日常的に後始末をしているなら、その前提はすでに崩れている。坂が多く、石畳の狭い歩道が続くリスボンでは、置き方ひとつで通行の妨げになりやすい。車いすやベビーカー、視覚に障害のある人にとっては、1台の放置が通れない壁になる。放置の問題は歩道にとどまらず、各地で車両が水辺に投げ込まれる被害も報じられてきた。
3社が競う構造が管理を難しくする
Bolt、Lime、Birdの3社が同じ街で競えば、利用者の多い場所に車両が集まりやすい。人目につく場所に置くことは、事業者にとって宣伝にもなる。その結果、駅前や観光地にはあふれ、住宅街では足りないという偏りが生まれる。
罰金や台数の上限も、事業者が「費用の一部」として受け入れてしまえば効き目が弱い。ルールを守るより、違反して稼ぐほうが得になる状態では、改善の動機が働かない。ここに、規制を重ねても問題が減らない理由がある。
パリの全面禁止との違いと共通点
パリは2023年、住民投票で貸し出しの禁止を決めた。反対票が約9割を占めた投票だった。リスボンは住民投票ではなく、市長の提案を市議会が審議する形をとる。決め方は違うが、根にある不満は似ている。歩道の安全と、街の景観への不安だ。
リスボンはこれまでも、台数の上限や駐車場所の指定といった規制を試みてきたとされる。それでも限界に達したという点に、今回の重みがある。「ルールを作れば共存できる」という考え方に、疑問符がついたことになる。
停止案は交渉の切り札にもなる
全面停止の提案が、そのまま実現するとは限らない。議会の議論を経て、台数の大幅な削減や、専用の駐輪場への返却の義務化といった条件付きの存続に落ち着く可能性もある。事業者にとっては、停止を避けるために大きな譲歩を迫られる場面だ。
日本では2023年7月に、最高時速20キロ以下などの条件を満たす車両を「特定小型原動機付自転車」とする制度が始まった。16歳以上なら免許なしで乗れる。手軽さの裏で、置き方の管理が課題になる点はリスボンと同じだ。専用の駐輪場所(ポート)に返す仕組みの価値が、今回の例で改めて見えてくる。リスボンの結論は、日本の自治体が制度を設計するときの先行事例になるだろう。
ビジネスへの影響
事業者は「自分で片づける」体制を示せるか
自治体が規制を強める局面では、事業者が自力で問題を解決している証拠が交渉力になる。放置車両の通報から回収までの平均時間、月ごとの回収台数、違反者への利用停止の件数。これらを数字で公開できる会社は、停止や縮小の議論で有利になる。日本で事業を行う会社も、自治体への定期報告を前提に、記録の取り方を今から整えておきたい。
車両の位置情報や傾きを検知し、倒れたまま放置された車両を自動で見つけて回収する仕組みも有効だ。投資は必要だが、停止されれば売上はゼロになる。費用と比べれば、備えのほうがはるかに小さい。
自治体と組む側が契約で決めておきたい三点
導入を検討する企業や自治体は、契約の段階で次の三点を決めておきたい。一つ目は、回収費用を誰が負担するのか。二つ目は、台数の上限と見直しの時期。三つ目は、基準を満たさなかったときに、どの段階で営業を止めるかだ。
リスボンのように行政が毎月1,200台を片づける状態は、費用負担の取り決めが弱かった結果ともいえる。条件を契約書に残しておけば、問題が起きたときに感情的な対立を避けやすい。
観光地や商業施設を持つ企業の備え
ホテル、商業施設、駅周辺の事業者にとっても無関係ではない。敷地の前で放置が続けば、苦情は施設側に届く。事業者と協定を結び、敷地内に専用の駐輪スペースを用意すれば、景観と人の動きを守れる。
逆に停止が決まれば、来訪者の移動手段が減る。送迎や貸し自転車といった代わりの手段も考えておきたい。まずは自社の周辺で、放置の実態を一週間記録してみるとよい。苦情の数と場所が分かれば、事業者や自治体に具体的に相談できる。